納得の人生

画家や作曲家、作家、建築、それ以外にもたくさんのクリエイティブな仕事をする人たち。

すごいなあと思う。

まして、亡くなっても名前が残っていくような人たちにはやはり才能があったのだろう。

 

しかし、無名でも才能を持った人はいる。

 

わたしの大学時代の友人はすごいバイオリン奏者だった。

子供のころから地元のオーケストラをバックに協奏曲を弾いたことがある、いわゆる天才少女だったらしい。親は音大に行かせるつもりだったのに、へそ曲がりの彼女はバイオリンのレッスンをやめてしまい、英文科でわたしと同じクラスになった。

 

わたしの母は戦死した叔父の影響で、バイオリンを聴くのが異様に好きだった。

わたしにはピアノを、弟にはバイオリンを習わせた。

わたしは小学生のころ、弟の習っていたバイオリン教室の発表会のほとんどの伴奏をしていた。

弟はすぐにバイオリンを止めたが、わたしはピアノで音大を目指してた。

でも、ピアノをやめたのは中3だっけ。

自分のピアノの音が嫌いで弾きたくなくなったのだ。

趣味でちょこちょこ弾き続けてはいたけど。

 

だから、彼女と大学のアッセンブリ―ホールでお昼休みに時々、アンサンブルして遊んだりした。

で、そのうち大学に断って、とあるお昼休みに小さなコンサートをした。

何十人かの聴衆のまえで、メンデルスゾーンのコンチェルトと小曲をいくつか演奏した。

 

今は彼女は印刷屋さんのおかみさんになって、バイオリンはとおの昔に止めちゃってる。

 

わたしにあんな才能があって、あの音が出せるなら、きっとプロを目指しただろう。

 

でも、彼女はバイオリンのない人生を選んだのだ。

 

納得の人生であってほしい。