白いクマちゃん

ダイニングの椅子の背に10センチ位のクマの抱っこちゃんみたいなのをくっつけている。先日、廊下の物入れで見つけた。

3年前に亡くなったMさんが、4年前のわたしたちの結婚記念日に花キューピットで花籠を送ってくれた。その時の籠の取っ手に、白い小さな縫いぐるみのクマがついていた。わたしが「お花、ありがとう。クマちゃん、かわいいね」とメールすると「クマちゃんが気に入ったのでつけてもらいました」と返事がきた。

 

彼女は日米でいくつもの大学や大学院へ行き、日本では国立大学の医学部で何かの研究をしていた。そこで博士号まで取った。研究者としての医学博士号は、医師の博士号より難しい、らしい。彼女曰く、である。

でも、彼女は研究のためとは言え、健康なラットにガン細胞を植えつけのに、耐えられなくなった。で、アメリカの大学の研究室へ勤めに行っちゃった。四半世紀以上前の話だ。

 

お化粧っ気もなく、お洒落にも興味がない彼女が「クマちゃんが気に入る」とは驚きだった。よくうちに泊りがけで遊びに来てくれたが、相方とも仲良しだった。

その彼女の訃報が半年遅れで届いた時は2人ともショックだった。

生涯独身だった彼女は、関東に住む妹さんに誰にも知らせないでほしいと言い残したらしい。妹さんは彼女の遺志を尊重して半年、伏せていらしたのだ。

わたしの前の携帯に彼女との最後の交信が残っていた。わたしたちの結婚35周年パーティーへ招待したが、残念ながら行けませんという返事だった。亡くなる2ヶ月ほど前だった。

 

おーい、Mさん。

コロナウイルスのお守り代わりにあなたのクマちゃんを椅子につけたよ。

自分たちで出来ることはやってるつもり。

後は運任せ。

よろしくお願い、ね。