一合枡
昨日、午後遅めに相方と買い出しに行った。
彼は魚が食べたいというので、例のちょっといいスーパーへ行った。
いつものように柵でヒラメか鯛を買うつもりだったがなかった。やむを得ず、刺身のパッケージになった勘八と鯛をカゴに入れた時、塩干物屋の男性が「焼きたてですよ」と言いながら鮎を数匹並べ出した。
わたしは、すぐ「2匹、ください」と言った。
以前から、相方と今年、鮎、食べてないなと話してたのを思い出したのだ。
大きな鮎だった。
さっき買った刺身のうち、鯛を棚に戻し、ほかの用事を済ませ、日本酒を買って帰った。
先日、どこでもらったのか忘れちゃったけど、木でできた一合枡が2つ、出てきた。
これにお酒を入れると、木のいい香りがした。
で、最近、和食にはこれにお酒を入れて楽しんでいる。
昨日も勘八の造りと鮎の塩焼き、菊菜の胡麻和えに塩昆布の入ったアボカドの和風サラダなどで夕食、というより飲み会かな、を始めた。
相方は最近、ソフトボールの関係でいろいろ、あるみたいで、いつも愛想の悪い人がますます仏頂面になってる。わたしに対しても普通にしゃべればいいものを、いちいち角のある受け答えをする。
その食事中も何気ないわたしの一言に、険しい顔をして怒鳴りつけてきた。
わたしは枡酒をくいっと飲み干し、彼の顔を真正面に見て言った。
「いったい何があったの?ここんとこ、怒鳴ってばかりいるよ。わたしがお喋りなのは今に始まったことじゃないし、あなたに悪意を持っていないことはよーく分かってるでしょ。なのに何をそんなにイライラしてるの?」
彼は何か言い返そうと口を開けたが、思い直したらしく「実は」と話し出した。
やはり、ソフトボールのチームのことがつっかえていたようだ。
でも、わたしには聞くだけで何もできない。
ただ、話しているうちに自分の中で整理できることがある。
分からない時は彼に聞きなおしたり、人の名前を確認したりして、長い話を聞き終えた。
昔、彼はわたしに言った。
「世界中の人がまりのことを間違っていると言っても、俺はまりの味方だから、まりは正しいと言う」
それに対してわたしはこう言った。
「世界中の人があなたのこと間違ってると言って、もしわたしもそう思ったら、わたしはあなたに間違ってるって言う」
今回のこと、彼がある人をかばってるんだけど、それがよそのチームの人や関係者に悪く取られてしまったみたい。
「かばった気持ちは分かるけど、ルールはルール。守らなかったあなたが悪い」
本人もしまったと思っていたはずだ。でも、認めたくなかったんだろう。
それで終わり。
いつもよりちょっと多い目にお酒、飲んで、彼は早々に寝てしまった。
今日もいつも通りの愛想無さ。
でも、つい今、昼寝してる彼の顔を覗きに行って「わたしのこと、好き?」って訊いた。
彼はちょっと照れくさそうな顔で言った。
「好きです」