男の背中
わたしの男の好みは少し変わっている。
少女のころから、いわゆる男前、ハンサムボーイは興味がなかった。
高校時代に1番好きだった俳優は若大将シリーズで有名になった田中邦衛だった。
ずっと女子校だったので、同年代の男性と話したのは、大学のコーラスクラブの交流があった男声合唱団部との合コンでが初めてだった。目的はお互いのクラブの定期演奏会のチケットを少しでもさばくためだけれど、それで知り合った男性と結婚した人もいる。年に10校近くの年もあって、けっこう男性のお知り合いは増えた。
誘っていただいてデートのまねごとしたこともあるけど、それだけのことだった。
相方と知り合うまで、可もなく不可もなくというお付き合いが何人かとあった。
1980年の8月、彼と出会った。
一目で彼に憑りつかれた、背後霊のように。
彼がバツイチ子持ちであることは会う前から知っていた。
そんな難しい人と付き合うなんて無理だと重々、分かっていたのに。
彼もわたしと付き合っても、最終的には振られて傷つくだけだから と逃げていた。
でも、逃げられると追っ掛けたくなるものだ。
結局、いろんなことがあって、もちろん親にも大反対されて、駆け落ちという手段しかわたしたちには残らなかったのだ。
そして1982年2月、会社へ行ってきますと家を出て、ハワイで2人だけで式を挙げた。
帰ってからわたしの実家へ毎日、頭を下げに行った。
それからまたいろんなことがあって、何とかわたしの親に結婚を認めてもらった。
ハワイへ行った日から、ずっと一緒に暮らしてきた。
来年で40年になる。
喧嘩も山盛りしたし、しばらく口を利かなかったこともある。
それでも彼が1番だ。
女を嬉しがらせること、何一つ言えない男だけど、それを補える可愛げがある。
見た目は普通で充分。
わたしだって大した見た目じゃない。
たった一つ、彼の見た目で好きなところ。
実家の工場で黙々と働いてきた彼の背中。
未だに筋肉が盛り上がり、逞しい。
いい男だ。