相方とジャック

今朝、わたしが掃除しに寝室へ入ったら、相方はベッドでひっくり返ってタブレットを見ていた。

わたしはクイックルハンディで壁に掛けた2つの額縁を拭いた。

 

引っ越した時にわたしが額縁に入れて壁に飾った彼の2枚の写真。

1枚は彼が馬に跨っているのを横から撮ったもの。

もう1枚は障害を飛び越えている彼と馬のアップ。

両方とも試合用の乗馬服を着て黒いヘルメットを被り、黒い馬に乗っている。

 

相方は半世紀ほど前に乗馬をしていた。

以前にも書いたので読んだ方には重複してしまうけれど、彼は21才でひょんなことから乗馬に興味を持ち、近くに出来た小さな乗馬クラブに入った。

好きなことにはもの凄く入れ込むので、毎日仕事の合間を縫って日に3回練習しに行き、24才の秋、国体の乗馬の障害飛越競技で優勝した。乗馬を始めてたった2年半での快挙。

こんな短い年数での国体の乗馬の優勝はおそらく彼以外にはないだろう。

 

次はオリンピック選手へ なのだが、そのためには乗馬クラブの社員になるか、大金持ちのパトロンを見つけるかしないと、オリンピック用の馬など買えっこなかった。

乗馬という競技は、馬7分、乗り手3分で、馬の能力に負うところが大きい。

オリンピックに出るような馬はヨーロッパで作られた馬を輸入し、もしくは乗り手がヨーロッパまで行って住み、馬との絆を作らないといけないんだそうだ。

 

そんなこんなで彼は乗馬をやめた。

 

わたしは拭く手を止めて、ふと訊いた。

「これ、両方ともジャック?」

ジャックは彼が作ったアラブの馬だ。片目が見えなかったので、その乗馬クラブに肉値で買われたそうだ。彼は近畿大会で、1度だけジャックで優勝したらしい。

「横向きの写真がジャック。馬場馬術の収縮速歩の途中。正面向いてるのはサラブレッドで障害飛越した瞬間」

見た目は障害飛越の方が躍動的でかっこいい。

見越したように「収縮速歩の方が難しいんやで」と付け足した。

 

何だか、相方とジャックの気が合った訳が分かるような気がした。