ミャーミャー
うちに向かって左隣のNさんチは50才くらいのご夫婦が住んでいる。
気さくなご主人ときれいな奥さんで、2人とも働いてらっしゃるのであまり顔を合わすことがなく、エレベーターで会うくらい。
話は違うが、うちのご近所の奥さん方はみんな、若くてきれいな人ばかりだ。
わたしは肩身が狭いが、年嵩なので偉そうにしている。
近ごろ、夜中にわたしが寝ようとすると、時々ミャーミャーという声がする。
お隣、猫を飼い始めたのかなと思っていた。
昨日、相方のソフトボールのお仲間が彼の畑で採れた野菜を山盛り、くれた。
いつもお知り合いにおすそ分けする。今回はNさんちにもと思い、夕方、電気がついていたのでピンポーン、した。
インターフォンで「はい」「あ、隣のYですが」「ちょっとお待ちください」
で、現れたのは奥さんじゃなくて、すっぴんの若い女性だった。
あら まあ、お嬢さんだ。入居した時、中学か高校生だった。大学行って、お勤めして、しばらくして結婚なさった。それ以来だった。
ああ、赤ちゃんができたんだ。あれは赤ちゃんの泣き声だったんだ。
「これ、おすそ分けです。召し上がって」
「ありがとうございます。いただきます」
「赤ちゃん、お生まれになったのね。おめでとうございます」
「あの、泣き声、大丈夫でしょうか」
「ぜーんぜん。これから大変でしょうけど、がんばってね」
「はい、ありがとうございます」
新生児の泣き声なんて、あの程度なんだ。
懐かしかった。
うちの娘たちも、1人目を産む時は1か月前から里帰りして、生まれてからもしばらくうちにいた。わたしも夜はNさんちにご迷惑じゃないかしら と気がかりだった。
娘が帰った後で、奥さんにお会いした時に「うるさくありませんでしたか」と訊くと、「全然、気がつきませんでした」っておっしゃってた。あれは本当だったんだろう。
産んだ母親は赤ちゃんの声に敏感に反応する。そのようにできているんだ。
わたしも産んだばかりの娘を連れ、里帰りした時は超神経質になっていた。夜に泣かれると彼女を抱いて線路に飛び込もうか なんて考えるほどだった。実家は居心地がいいような悪いような、で5日で自分ちに帰った。そしたら神経過敏はピタッと治まった。
うちからはミャーミャーとしか聞こえないお隣の赤ちゃんの声はわたしに色々なことを思い出させてくれた。