銀行屋さん

さっきまで銀行の人が2人来ていた。

この春にうちの担当になった24才のS君はうちに初めて挨拶に来た時から、相方の「お気に」だった。うちのほんの少しの財産の、そのまたほんの少しを定期に入れている。彼はそれを一生懸命、少しでも利率のよいものにしようと、いろいろ考えて提案してくれていた。

今日は営業の主任の年嵩の女性が一緒だった。なかなかの美人で頭の切れそうなIさん。彼女はまず、マンションをほめ、相方とわたしのことを美男美女だと臆面もなく言い、ソフトボールや俳句とはよい趣味をお持ちですねと力の限りほめたおした。

それから彼女は投資信託の話を始めた。S君にはうちは投信では苦い思いをしていることを話してあったのに、彼では埒が明かないと銀行は彼女を寄越したようだ。

相方は一応、彼女にもうちは投信はしたくないと言っていたが、彼女があまり熱心に勧めるので、とうとう「じゃあ、半分だけ」なんて言った。

わたしは相方をにらみながら、銀行屋さんに口元だけ微笑みかけるという離れ業をやってのけた。「すみませんけれど、わたしはどうしても投信はいやなんです。彼の名義でもわたしたち夫婦の大切な財産であることには間違いないでしょう。わたしの投信は何年にも渡って儲けどころか元金を大きく割ったまま。わたしに投信を勧めてくれた女性は出世して、もうよその支店へ行き、後任の担当者は運用報告書を送ってくるだけ。どんな投信でも元本保証なんてできないでしょ!」この辺でわたしは興奮して語尾がきつくなる。「それともあなた、うちの投信に穴あいたら、あなたが自腹でうめてくれるっ!」

で2人は「どうもお邪魔しました」と逃げて帰った。

悪い事しちゃったな。あんないい方しなくてもよかったのに。

でも、相方はわたしがあんな言い方した理由、分かってるんだ。

今日来たIさん、わたしに投信を勧めた女性によく似てたんだ。雰囲気、背の高さ、そして豊かな胸。そーっくり。

お気の毒様でした。