金の斧

相変わらず午後3時ごろになると相方と二人で花札をする。

相方はわたしの挑発にも乗らず無表情で、口髭の先をピクピクさせるくらいで淡々としている。わたしはのべつ幕なくしゃべりながら相方の反応を見ている。もちろん、嘘を交えて、ある札をないように言ったり、ない札をあるように言ったり、相手の次の手を予想したりして相手を揺さぶる。

昨日の一月、つまり第1回戦はわたしの手札がほとんど2枚ものの悪い手で、おまけに雨の札も2枚あった。雨は2枚持ってると不利なのだ。同じ種類の3枚札は裏向けにして場に置き、山札の1枚と3枚のうちの1枚を交換してもらえるルールになっている。わたしは素知らぬ顔で「三枚もん」と言って、雨2枚と菖蒲の1点札1枚を置いた。うまい具合に相方は雨の札を1枚引いて、代わりに桐の20点の札を山札から引いて渡してくれた。そこからトントンとわたしに運が回ってきた。五月もわたしが勝ったのだが、勝った点数を計算している時に彼は「今のおかしい。こっちの計算と違う」と言う。もう一度やり直して見たら、わたしは5点札を1点札と勘違いして計算していたので、結果20点ほど増えた。

相方は珍しく負け続けていた。なのに正直にわたしの有利になるようなことを言ったのだ。

わたしは「正直者には金の斧」と言って彼に斧を手渡すふりをした。

彼は「なんや、それ」と笑っていた。

 

結局、半年、つまり6回勝負して200点ほど勝った。わたしにとって初の偉業を達成した。まあ、花札はほとんど運で、二人の実力は大差ないのだが。

 

片付けながらわたしはもう一度言った。

「正直者には金の斧」