パン
わたしは中学生の頃からパンが大好きになった。
それまでは近所の市場の中にあったパン屋さんしか知らず、パンというものはビニールの袋に入った大量生産されたものだと思っていた。
ところが電車通学で通い始めた中学校の近くに素敵なパン屋さんがあった。周辺にはいくつもの学校があり、色々な制服の学生たちで狭い店内はいっぱいだった。
そこでは奥でパンを焼き、出来立てを並べていた。今でこそ当たり前なやり方だが当時のわたしには驚きだった。おまけにその美味しいこと!特にお気に入りだったのが「ばくだん」。揚げたパンにチョコレートをコーティングしただけのものだったが、パンとチョコのバランスがよくて必ず買った。パンを買うためには、少し家を早めに出なければならなかったが、苦にならなかった。学校でもパンを売っていたが比べ物にならなかったので。
それからしばらくして、わたしの住んでいた町でも作りたてのパンを売る店が出来たが、あのお店には敵わなかった。
大学生になり、わたしの行動範囲が広がった頃、旨いフランスパンに出会い、わざわざ大学の帰りに遠回りして買って帰ったりした。
そしてわたしは本格的なパン食いになっていった。
ところが結婚して住み始めた町には美味しいパン屋さんがなく、実家へ行った時に沢山買って帰ったりしていた。
今はもう、あきらめの境地だ。近くのスーパーに入っているパン屋さんの常連客となった。買うのはいつも6枚切りの食パン。このあたりではあの食パンが一番だと思う。ポップアップのトースターで焼いてマーガリンを塗りコーヒーといただく。これがわたしの朝食だ。
先日、同級生と話をしていて、まだあのパン屋さんはあると聞いた。
もちろん代替わりしているだろう。
行ってみたいような、みたくないような。