研ぐ

「研ぐ」と言う言葉は玉や金属などを磨いて光沢をだすことと広辞苑にあるが、日常生活の中ではおおむね「米を研ぐ」で一番よく使う。

わたしはご飯より麺が好きなのだが、相方は白飯が大好きだ。

だから自発的に米を研いで炊飯器で炊く。

その際の研ぎ方が徹底しており、そんなに研いだらお米の形が変わっちゃうよというほどなのだ。でも、ま、自分でするんだから好きにすればとは思う。

それから彼が研ぐのは包丁だ。コックをしていたころは毎日、研いでいたそうだ。

月1回か2回、愛用の砥石で研いでくれる。トマトやなすの皮に包丁の刃がスッと入っていくのは気持ちがいい。これは台所に立つ人ならみんな、共感してくれるんじゃないかな。

砥石には、荒砥、中砥、仕上げの3種類あるらしいが、今うちには荒砥と中砥の2種類しかない。それでも研ぎ上がった包丁は切りやすく使いやすい。

 

先日、彼が台所で何かしていた。砥石が見えたので、ああ、また包丁を研いでくれてるんだなと思っていた。

しばらくして終わったらしく、彼は汗ふきながら麦茶を飲んでいた。ところが、包丁が見当たらないので「包丁はもう、しまったの」と聞くと、「包丁を研いでたんじゃない」と言う。

「じゃあ何をしてたの」「砥石を研いでいた」

はあ?どういうこと?

見ると、ベランダに張ったタイルの残りのうちの1枚が流しにあった。

「この裏でこすって、砥石のへこみを目立たなくしたんや。真ん中だけどうしてもへこむからな」

 

彼は誇り高き職人だった。彼を指名してくるお得意さんもいた。自分の溶接したものには銘を入れたいというほどだった。

雀百まで踊り忘れず。