サルトリイバラ

テレビで紀行ものを見ていたら、いばら餅というものを紹介していた。

柏餅のようなもので、柏ではなくサルトリイバラの葉で包まれていた。

初めてのはずなのに、見覚えがある。味も食感も何となくわかる。

 

50年以上前、わたしにはまだ4人の祖父母がいたが、父方の祖母がとても苦手だった。140センチ位の小柄な婆さんでずけずけ、ものを言う。わたしは健康優良児に選ばれるくらい大きな女の子だった。彼女の唯一の女の孫だったのに「大女、総身に知恵の回りかね」るのだと言われ続けた。

大人になってから母に「よくあんな姑にがまんできたね」と言うと「わたしのことは可愛がってくれたから。それに他人の事、悪く言うだけじゃなく、自分のこともけなしていた。お腹の中はきれいな人だったのよ」そう言えば、祖母と叔母と母の3人でよく、旅行に行ってた。

料理は同居していた独身の叔母がほとんどしていたが、ある日訪ねると祖母が台所で何かしていた。しばらくして柏餅みたいなのがのったお皿を持ってきた。蒸したてのほやほやだった。葉っぱの香りとお餅とあんこが一体になってとてもおいしかった。叔母にこれは柏餅かと聞くと、葉が柏ではないと言う。「何の葉っぱ?」「山で取ってきた」結局名前を教えてもらったかどうか、覚えていない。

たぶん、いや間違いなくサルトリイバラだったんだ。

あのお餅はあの時、一回こっきりだった。