百の夫婦

さっきIさんがまたもやお野菜をいっぱい持って来て下さった。

トマトに茄子に胡瓜にいんげん豆。

とても食べきれないのでいつもの通り、てっちゃんちにおすそ分け。相方が行った。

てっちゃんの顔が見たかったんだろうけど、お留守だったらしい。彼はパラのウエイトリフティングの選手だけど、まだ本決まりではないと奥さんのかほちゃんが言ってたそう。何だか難しいんだな。

 

うちの分を仕分けして冷蔵庫に入れてたら相方がIさんの話をし始めた。

「Iさん、明日、2回目の接種なんやけど、1回目の接種の後、家に帰ってから胸や背中がちりちりぴりぴり痛んで大変だったらしい」

彼は60才のころ、シニアのソフトボール全国大会で1位のウインドミルのピッチャーだった。

鉄人と呼ばれていた。

今は80才で、3年ほど前に心臓を悪くして、何度か入院なさった。

「え、それで明日は接種して大丈夫なの?」

「1回目は、家に帰ってから友達が来て深酒したらしい。それで痛んだんや」

家?奥さんは何もおっしゃらなかったのかしら。

 

ああ、そう言えば。

 

一昨年、Iさんはバイパス手術を受けた。退院されて1週間ほどして、Iさんがお野菜を持って来て下さった。相方は留守だったのでわたしが受け取りに下へ降りた。

Iさんはうちでも一緒に飲んだりしていたので、わたしのこともよくご存じで「おかあちゃん」と呼んで可愛がって下さってる。

「Iさん、もうソフトボールするの?」

「やるよ。大丈夫や」

「でも、しばらく様子を見てからにしたら」

「大丈夫、大丈夫」

「わたしが奥さんだったら、ちょっと休んでって言うな」

「うちのはなーんも言わへん」

って笑ってらした。

 

百、夫婦がいたら、百、やり方があるんだ。