グレンチェックのスーツ
今週のお題「自慢の一着」
わたしの母は洋裁の学校を出ていて、父の服以外はほとんど母の手作りだった。
わたしは高校生になって、生まれて初めて既製服を買わせてもらった。ベージュの綿のコートだった。母の作った服は、最新の洋裁の雑誌の服を型紙から起こし、生地もボタンも上質だったが、何かが違った。だから、それ以降、わたしはほとんど既製服を買うようになった。
今でこそ、Tシャツやジャケット、帽子に至るまで、綿や化繊のニットだが、当時は綿や毛の布地が主流だった。母のミシンはニット類は縫えないという理由で、わたしは既製品を買い続けた。
今、わたしのクローゼットの中に母の作品は1つも残っていない。
母自身も、もう20年以上前からミシンは踏めなくなった。
わたしの手元に写真が一枚ある。小学校の入学式の朝のわたしの写真だ。
わたしは真新しいランドセルを背に、誇らしげにこちらを振り向いている。
母の縫ったスーツを着ている。白黒の写真だが、色も覚えている。
地味なピンクとオフホワイトのグレンチェックのジャケットとスカート、中に白のブラウスだ。
あのように素晴らしいスーツを、あれ以来、着たことがない。