先見の明
PTAのバレーボールをしていたころは、やれ突き指だ、捻挫だ、肉離れだと、近所の整骨院へずっと掛かっていた。先生は初老の男前で、助手を年上の奥さんがしていた。通い出して1年ほどたったころ、丁度患者さんが引いてわたし一人だったので、先生、おいくつですかと聞いた。先生はわたしと10才しか違わなかった。わたしが30代で先生もまだ、40代だったのだ。奥さんは50代後半のように見えた。いつもしっかりお化粧して、女っぽいひとだった。
先生は肉親の縁が薄く、他人さんのお陰でここまでこれたと話された。苦労が彼を老けさせたのかなと思った。しかしいつも穏やかな笑顔をされていた。
それから10年近くたったころ、整骨院の数がぐんと増えた。団塊の世代の年が上がってゆき、患者の数も増えたからだ。
整骨師や鍼灸師の資格を取りたがっている若い人の話を先生にした。
先生は「僕が死ぬ頃がピークですよ。今から若い人が資格を取ってもその後は先細りです。」と言われた。今は年寄り相手の商売が多い。老人ホームやデイケア、熟年婚活に熟年用スマホ。まあ、年々年寄りはでてくるが、確かに人数は減り、客の取り合いとなる。
いまだに新しい整骨院のチラシが郵便受けに入っている。
わたしが引っ越してからは時々、スーパーでお見掛けするだけとなったが、まだ診療なさっているかどうかは知らない。
先見の明のある先生は20年以上前から現在のことを想定してらした。すごい。
とか言っているわたしも高齢者の一人である。