遺伝

わたしの両親は美男美女だった。

父はすらっと背が高く、勉強も仕事もできた。母は小型のグラマーで、家事全般、特に洋裁が上手で子供の服も父のパジャマも、すべて母のお手製だった。

 

これらの両親の外側のよい点はわたしには遺伝しなかった。

 

父からの遺伝だと思えることは俳句を始めたことだろう。70歳まで務めた会社を辞めて、父の選んだ趣味は俳句だった。78歳で病院で亡くなるまで、歳時記と鉛筆とメモをそばに置いていた。時々、わたしに作った句を見せてくれたが、その頃のわたしは俳句に興味がなかった。それでも今、思い出してみると父の句はたった8年ほどのキャリアにしては格調高く、大正の香りがした。

 

母からの遺伝は家計簿をつけること。わたしは大学生、もしかしたらそれ以前からお小遣い帳をつけていた。大層なものではなく、手帳の隅に「パン 25円」とメモしていただけだ。今はバインダーに週間ダイアリーを付けて、左のページにちょっとした日記と右のページに簡単な家計簿をつけている。つけたらOKで何の足しにもなっていないが、つけないと気持ちが悪い。

 

このなんちゃって家計簿を、なんと娘がつけているらしい。いや、彼女は少ない家計を何とかうまくやり繰りしようと、きちんと項目に分けてつけている。あんなに言ってもお小遣い帳をつけなかった娘が、結婚したらころりと変わった。

もしかしたら、これも遺伝かも。