麦茶のポット
冷蔵庫で麦茶を冷やすためのポットをご存知だろうか。
プラスチックやガラスでできたあれである。
空になると次のを入れる前に洗う。スポンジを握り、手をグーにしてポットに突っ込んで底から洗ってゆく。
相方がリタイアしてから、お風呂洗いやベランダの植木の水やりなど手伝ってくれるようになった。ああ、それからわたしはとろろ芋が大好きなんだけれど、肌に付くと痒くて痒くてたまらない。一種のアレルギーだろう。なのに食べることはできるのだ。口の中なら大丈夫なんだ。だから、とろろは皮むきからすりおろし、後の食器洗いまで、ずっと相方がしてくれている。
で、麦茶のポットである。
ある日、麦茶が空になったと言って、珍しく相方がポットを洗おうとした。
「ポット洗い用のスポンジは?」「え?」「細長い棒の先にスポンジが付いたやつ」「そんなのないよ。その普通のスポンジで洗うのよ」「入らへん」
見ると相方の手はごつすぎて、ポットの口に入らないのだ。
嬉しかった。少なくとも相方より手や骨格は「華奢」なんだ。
わたしの辞書になかった「華奢」という言葉だ。
ポットを洗うたびにちょっとニヤニヤしてしまう、けったいな女である。