見守る
自宅のベッドの上で母は薄目を開け、口をぽっかりと開いていた。
このままで棺に入れられるのだろうかと叔母と小声で話していたら、急に涙が出てきた。
美人で素敵な母だったのに、死はあの優しい口元さえ奪ってしまった。
9月19日、台風14号が来かけた日でよそのお宅の通夜や葬儀が後へずれて、一番早くても通夜21日、葬儀22日ということだった。
92才という年齢では親戚とも友人とも連絡が取りにくく、本当にこじんまりとした家族葬とし、母の妹の叔母と私たち家族と弟の家族だけで執り行われた。
棺に納められた母はうっすらとお化粧をしてもらっていて、目も口も閉じ、口紅も塗ってもらっていて微笑んでいるようにも見えた。
ああ、よかった。ママだ。80才ごろまで、よく笑っていた母の面影がそこにあった。
途端に涙があふれ、止まらなくなった。
お通夜から告別式まで、暇を見つけては母の顔を見に、棺のそばへ行った。
そのたびに泣いた。
よくこれだけ泣けるなと自分でも驚くくらい泣いた。
心の中で母に礼を言いながら。
「ママ、わたしを生んでくれてありがとうございました。お陰でほら、わたし、こんなに幸せな老後を過ごしています。大好きな相方がいて、娘たちやその夫たち、孫たち、みんな元気に暮らしています。そのすべてがママが陣痛微弱で2日掛かりでわたしを生んでくれたことから始まったのです」
母は夫であった父を2003年に亡くしてから、19年間、一人でわたしたちを見守ってきてくれたのだ。
これからは天国で父と二人で仲良く穏やかに暮らして下さい。
今度はわたしが相方と二人で子や孫を見守っていきます。
あなたがそうして下さったように。