男の顔、女の顔
相方の若いころの写真を見ると、癖は強いがなかなかの男前だった。
しかし、わたしが初めて会った時には、もう男前ではなくなっていて、癖だけがより強くなっていた。
あの時からわたしにとって彼の存在は大きかった。なのに、何回会っても顔を覚えられなかった。
あれは何故だったのか。
わたしには既に目に見える部分ではない彼が見えていて、それに大きく惹かれていたのだと思う。
この感じは後にも先にも彼へだけの感覚だ。
初めて会った日のわたしの印象を相方に聞くと「普通だった」と言う。
会社勤めしているごく普通の26の娘。
彼との結婚に反対され、28で駆け落ちして、妻となり同時に小学校3年生の子の母となった。
それからの約40年、何とかやってきた。
そりゃ、いろんなことがいーっぱいあったよ。
どこんチにだってあるだろ。
泣いたり笑ったりして生きてきた。右向いて左向いたと思ったら、わたし、もうちょっとで「古希」だよ。
彼の顔の癖は柔らかくなり、おでこが広ーくなり、白髪が何とか残っている状態。白いひげで口の形がはっきりとは分からない。
わたしの唯一の自慢だったくっきりした二重瞼は、上の瞼がずり落ちて腫れぼったい一重になり、ぷくぷくしてた頬っぺたの肉は垂れ下がり、口まで引っ張られて「への字口」だ。
でもね、彼もわたしもいい顔してると思うよ。
いい人生を生きてきたから。