果物

わたしの両親は2人ともあまり果物が好きではなかったらしく、買ってきた果物を家族で食べた記憶はほとんどない。

だから反って幾つかの果物に関する思い出が明瞭だ。

 

正月を前に、大きな木の箱と段ボール箱が父が勤めていた会社から送られてくる。

木の箱には、おが屑がいっぱい入っていて、その中に赤いりんごが見え隠れしていた。

段ボール箱の中は温州みかんで、正にオレンジ色があふれんばかりだった。

3軒隣の母の実家やご近所にたくさんおすそ分けしたはずだが、それでもまだまだ残っていた。

りんごを焼きりんごやアップルパイにするなんておしゃれなことは知りもしなかった。

それでも冬場で日持ちがいいから、りんごは皮を剥いて少しずつ食べていった。

問題はみかん。段ボールの中で徐々に、でも確実に日々、カビてゆき、最後は食べられそうなのを残し、あとは捨てた。もったいなかったなあ。

あのころ冷蔵庫はうちにまだ、なかったのだ。

 

あと思い出に残っているのは3軒隣の母の実家の庭に早春に実を付ける桜の木と、秋に実のなる無花果の木。

 

サクランボは木の上の方から鳥が食べていくので、下の方の手の届く範囲はわたしたちが取った。きれいに洗って食べたが、そんなに甘くはなかった。取っても取ってもまたすぐに次のが生るから、後の方はお鳥様御用達となった。

その点、イチジクは甘かったよ。でも、見た目があまりよくないのでわたしはあまり好きじゃなかった。母は冷蔵庫が来てからは冷やして食べてたけど、好きだからじゃなく、もったいないから食べてたんだ。

 

そんな感じであまり果物好きな両親ではなかったので、わたしもそんなに果物がほしいとは思わなかった。

でも、結婚してからは家族が欲しがるだろうとたまに買っていた。相方の好きな果物はバナナとりんごと柿、それも干し柿。今もバナナは安くて柔らかくて食べやすいから大好きで、買い出しのたびに買っている。

 

実はわたし、ある秋の果物だけは好きで、でも美味しいのはお高いので、年に1,2回だけ買って食べる。

 

桃だ。

あの青みがかった白が薄ーいクリーム色になり、刷毛で少しずつ頬紅を刷いていくようにピンクが濃くなる。

綺麗な果物だと思う。色白のはだに産毛が光り、頬が赤く染まっていく少女のようだ。

実はジューシーで品の良い甘みが何とも言えずよい。

 

この秋には安心して桃を買いに行けますように。