ひとの顔
今日もいいお天気。
洗濯物がゆらゆらしてる。
朝から月1回の歯のクリーニングの日だった。
わたしが椅子に座り、衛生士さんが準備をしてくれているところへ、いつものポニーテールの金太郎さんの先生がわざわざご挨拶に来てくださった。
「主人がお世話になってます」と言うと「あ、いやいや」と笑ってらした。
失礼だけど、あまりお色気はない。人のこと、言えないけど。
でも、子供の患者さんのためか、いつもドラえもんやコアラの小さな柄のピンクのTシャツを着てらっしゃる。
それ以外の服を着てらっしゃるの、見たことない。
いや、1回だけある。3年ほど前の夏の暑い朝、8時すぎ、吟行へ行くのに急いでいたら、地下鉄への階段でバッタリ。先生は出勤途中だったようだけど、あまりに思いがけなかったのでご挨拶するので精一杯。先生がどんな服、着てらしたかはっきりとは覚えてない。たぶんベージュっぽい半そでのスーツだったような。
先生だけじゃなく、職業でユニフォームを着ていて、もしくはユニフォームがなくても、彼らの仕事場だけで会う人たちって、違う場所で会うと分かんなくて困ることがある。
「えーっと、どちら様でしたっけ」とはさすがのわたしも言いにくい。
相方はひとの顔を覚えるのが上手いというか、なんというか。
いつぞやも道で小柄な中年女性ににっこり挨拶され、わたしも「あ、どーも」と頭を下げ通り過ぎた。
一緒にいた相方に「きゃあ、誰だっけ。わかんない」と言うと「クリーニング屋の受付してる人や」と言う。彼はクリーニング屋へ入ったことはない。このへんではよく見かけるチェーン店の1店舗だけど狭い店なのでいつも外で待ってる。おまけにあそこのクリーニング屋さんにはユニフォームがあって、彼女もお店では着てる。なのに、よくわかったな。彼女はなかなか可愛い人だから覚えてたんだろうと勝手に思ってた。
ところが別の時、やはり道でばったり会った、ゴム草履はいた中年のヒッピーみたいな男が「久しぶりやん」とわたしたちに声をかけてきた。わたしは見た目よりその声と言い方に「ああ、この子、知ってる、えーっと、えーっと」と考えてたら、相方が「お、マスター、元気か」って言った。ああ、そうだ。地下の小さなバーのマスターで、おかまっぽい言葉遣いするけど、女好きの子だ と思い出した。
暗いバーのカウンター越しに話してたから、声の方が印象に残ってたんだ。
それにしても相方はよく覚えてられるな。
まあ、人の顔覚えられるのも、才能のひとつかも。