亀虫と大罪
亀虫ってご存知?
俳句の秋の季語に放屁虫(へひりむし)ってのがある。
これはホソクビゴミムシ科の甲虫の仲間で黒地に黄色紋のあるやつ。
敵に襲われると尾部から悪臭のガスを噴出する とある。
わたしの言ってる亀虫は緑色で同じく悪臭を放つカメムシ科の昆虫の方で、これも季語、放屁虫の傍題だ。
いずれにしても秋によく見かけるから秋の季語になってる。
ところがうちのマンションは、よく言えば冬もあたたか、はっきり言えば夏は冷房無しでは生きてられないほど暑い。
だから冬でも亀虫はよく見かける。
2,3日前、南向きのガラス戸のカーテンに影が映った。
奴だ。
ホントは甲虫類はそんなに怖くはないのだが、臭いのはいやだ。
相方を呼んだ。
「虫がいるよう。ガラスに付いてるよう。怖いよう」
相方はのっそり現れて「どこや?」と訊いた。
「そこ、ほら、カーテンの影が動いた」
「亀虫か。ガラスの外やろ」とカーテンを引いた。
ギョッ。
ガラス戸の内っ側の、おまけにカーテンに付いてたのが、床に落ちた。
わたしは廊下へ逃げて、ドアを閉めた。
「捕まえたよ」
「袋に入れて口を縛って、外のゴミ箱に捨てて」
彼は言われた通りにして言った。
「亀虫って害虫か?殺さんとあかんのか?」
「知らないけど、臭いからイヤ」
相方はテレビに戻って行った。
わたしはそれから亀虫のことを考えていた。
白いティッシュペーパーの間で今はまだ、生きている。
ポリ袋の中の酸素が減るのと食べ物がないのと、どちらか、もしくは両方の理由でいずれ亀虫は死んじゃう。
何の罪もない命を、ただわたしが嫌いだからという理由で殺そうとしてる。
何だか、大罪を犯した気分になった。
じゃあ、どうすればよかったの?