Wさん

今日は午後に実家へ行き、その後、お墓の掃除をしに行った。

もう冬の始まりだから、雑草も枯れ、楽勝だと思っていたのに、何の何の。

1時間半ほどかけて格闘し、お花と線香を供え、手を合わせ、疲れ果てて帰ってきた。

 

ポストを覗くと、喪中のお葉書が1枚。働いていたころの上司のWさんからだった。

彼は1970年代の中頃から会社にコンピューターを取り入れるべく奔走した人だった。まだそのころ、わたしの働いていた業界ではタイプライターで書類を作成していて、書類によっては人がそれを手で渡さなければならなかった。結局、実現したのは10年ほど後で、わたしは結婚して会社を辞めていた。彼はそれからも穏やかだが粘り強い仕事ぶりで若くして取締役になった。

その一方、趣味が多く、音楽を聞くのも、美術館へいくのも好きだった。絵を描き、シルクスクリーンをし、篆刻をしたり錫のちろりを作ったりした。京都府の山奥に薪ストーブのあるログハウスを建て、そこへ人を呼び楽しんだ。

ずっと前に彼に訊いたことがある。「Wさんはいっぱい趣味があっていいですね。奥さんとご一緒にはされないんですか?」

すると彼は「彼女は彼女で違うことをしてます」

わたしが結婚する時も後押しして下さった。「僕は人生で2つ、したいことがある。夜逃げと駆け落ちです。あなたに1つ、先をこされたな」

年に1回、仲間とシルクスクリーン展をなさるので、年に1回、顔を見にいく。

40年ほどのお付き合いになるが、一度も奥さんとお目にかかったことがない。

その方が亡くなってしまった。もう、お会いすることはできない。彼が80代前半だから、彼女は80を過ぎた年ごろだったのか。

Wさんらしいあっさり、淡々とした喪中葉書で、小さな花のシルクスクリーンが添えてあった。

 

Wさん、お寂しくなられましたね。今からメールいたします。